外伝その2 活字プロレス

活字メディアがプロレス界に与えた影響と言うのも何気に大きかったりします。そもそも筆者が格闘技系ではない純プロレスに興味を持つようになったのは、週刊ファイトのおかげなのですから。
プロレスに関する活字メディアと言えば、まずは東京スポーツが井の一番に挙げられるでしょう。東京スポーツは言ってみればプロレスの表の部分を描いた正当派メディアです。それに対して、表には見えない部分・・・プロレスの思想的な面にスポットを当てて「活字プロレス」というジャンルを確立させたのが週刊ファイトの故・井上義啓編集長でした。
活字プロレスとは、言ってしまえばこれまで筆者が書いて来たようなことに、それぞれ選手達に思想的なドラマを持たせてドラマティックに描いたものとでも言えばいいのでしょうか。「あの試合に臨んだ時の猪木の心境はこうだった」「あの馬場さんの言葉の裏には実はこんな意味が隠されていた」みたいなことを考え想像するものと思って貰えれば結構でしょう。I編集長こと井上義啓氏の活字プロレスは、多くの考えるプロレスファンを生み出して行ったのです。
I編集長に直接感化されたプロレスファンもそれなりの人数に昇るかとは思います。でもそれ以上に重要なのは、その弟子達の振りまいた間接的な影響でしょう。広義において、I編集長の影響を全く受けていないプロレスファンなどいないと言っても過言ではありません。というのは、プロレスマスコミの第一人者たち・・・ターザン山本、GK金澤、タダシ・タナカなどは元週刊ファイトの編集員だったのですから。
I編集長の弟子の中でも、特にターザン山本がプロレス界に与えた影響は図り知れません。
まずはターザン山本の週刊プロレスがプロレス界を動かした事例として、SWSバッシングが代表例でしょう。SWSの札束攻勢におよる選手の引き抜きに対し、ターザン山本が編集長を務める週刊プロレスが猛烈なバッシングキャンペーンを張ったのです。この週プロによる執拗なるSWS叩きがSWS崩壊に与えた影響は少なからぬものがあります。
第二次UWFの大ブームについても週プロの援護射撃が成した功が大きかったです。ターザン山本はI編集長ばりの思想イデオロギー的な手法で第二次UWFの擁護記事を書き、U幻想を膨らませるのに一役買いました。
なにしろ新日本プロレスがUWFの後塵を押すことになったとき、長州力から、

「山本、Uはお前なんだよ。あれはお前が作ったんだよ。」

と批判されたくらいですから、いかにターザン山本というか活字プロレスの影響力が大きかったかが窺い知れるでしょう。
プロレスとは試合を見ることのみならず、思想的イデオロギー的に考察することでも楽しめるジャンルであることを確立したI編集長のことも、プロレスの歴史を語るにおいて外すことは出来ないのです。

 


戻る

inserted by FC2 system